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京都地方裁判所 昭和42年(ワ)732号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(ロ) ところで家賃の算定方法については、基本的なものとして不動産に対する投下資本(土地、建物の価格)に対する適正利潤に租税、管理費など諸経費を加算する利廻り方式(積算式)と従前の家賃額にその後の土地、建物価格の上昇率を乗じて算出するスライド式があるのであるが、本件は新規貸付の賃料ではなく長期間継続している賃貸借の既定賃料の増額が問題となつているのであり、また特段の事情がなければ、従前の賃料額には賃料決定の客観的要素および当事者間の主観的諸事情が一応正当に反映されているものとみるのが相当であるところ、本件においてなんら特段の事情の立証はないから、スライド式を基本として、これによつて得られた額を適正に修正して相当額を確定するのが合理的である。

(ハ) 本件鑑定人中西三郎、同岩本義一の各鑑定の結果は次のとおりである。

(中西鑑定)

昭和四一年二月(円)

昭和四二年七月(円)

スライド式

八、六三五

一〇、四三〇

積算式

一四、二七〇

一五、六九九

右二者の平均

一一、四二〇

一三、〇六〇

(岩本鑑定)被告大谷分

スライド式

七、九〇〇

八、八〇〇

底地利回り方式

八、〇〇〇

八、七〇〇

積算式

九、七〇〇

一〇、六〇〇

なお右中西鑑定はスライド式の計算の基礎たる経済変動率として左記のとおりの平均値を採用している。

昭和三九年三月

四一年三月

四二年三月

日本不動産研究所による

六大都市の住宅地の

地価推移指数

(乙第一号証)

一〇〇

(昭和三〇年三月一〇〇

二九年三月九二八

を換算)

一一五・八

一二三・五

国税局算定の路線価の

変動率

一〇〇

(路線価坪二七、五〇〇円)

一三〇・九

(同三六、〇〇円)

一七四・五

(同四八、〇〇〇円)

の平均値

一〇〇

一二三・三

一四九・〇

右の指数は二年間に三割、その後の一年間に三割を超える大幅な上昇を示しており、この指数をそのまま採用すると地価上昇の利益を過大に賃貸人に得させるきらいがあり、妥当ではない。けだし地価の上昇は新たな投資によつて生じたものではなく、一般物価の上昇および経済的価値の相対的な増大に起因するものであつて、長期間継続した賃貸借の場合には一般物価の上昇率をこえる地価の急激な値上り幅(時として投機的な値上りを含む)の全部に比例する賃料の増額をすることは、地価騰貴による利益の過大な部分を賃貸人に得させる結果となり、他方賃借人の生活の安定を不当に害することになり相当ではないからである。してみれば本件において中西鑑定が前記の指数の平均値をもつてスライド式算定の基礎指数としたのは概ね妥当と認められる。

岩本鑑定のスライド式による算定賃料は左記の上昇率を基礎とするものである。

土地価格

建物価格

昭和

三九年六月

昭和

三九年六月

四一年二月

一・一

四一年二月

一・四

四二年七月

一・二

四二年七月

一・四

しかし右土地価格の上昇率は全国不動産価格指数(住宅地昭和三〇年三月を一〇〇とする)の昭和三九年七月九八〇昭和四一年二月一〇六〇、昭和四二年七月一一六〇を換算したものであつて、本物件所在地域の特別上昇率(たとえば前記中西鑑定の指摘するの路線価変動率)を全く考慮の外におくものであつて妥当とはいえない。けだしスライド式計算の場合、理論的には対象物件の両時点の価格を算出し、対象物件そのものの騰貴率を基礎として計算すれば、もつとも正確な数額を得られるものといえるが、前提となる新旧両時点の対象物件の価格を正確に把握すること自体必ずしも容易でなく、結局諸種の統計に依存することになれば、なるべく対象物件に接近した地域の価格変動率を利用すべきであるからである。

(ニ) ところで、被告主張の賃料算定の方法は、昭和三九年六月当時の、約定賃料と積算式賃料との比率7.000/13.271を昭和四一年二月、四二年七月においても維持するのが相当であるということになるが、この方法によると土地、建物価格の高騰に伴い積算式による賃料額と認定賃料額との差は拡大するばかりで、両者が接近することはあり得ないこととなつて不当である。のみならず昭和三九年六月当時の前記比率自体当事者間に意識的に定められたものではなく、必然的な基準性は認められない。

(ホ) <証拠>によれば、本件建物は建築後三五年余を経ており、かなりいたみがはげしく、近年は被告らにおいて修繕費も年間一万円程度を支出していること、および本件建物の隣家でほぼ同一条件である原告所有の建物の賃料は、昭和四六年二月ごろの入居者において月一万五、〇〇〇円程度である事実が認められる。この認定を左右する証拠はない(なお近隣には月六、〇〇〇円とか六、五〇〇円の賃料の建物が存在するものと認められるけれども、本件建物と同じような条件のものであるか否か判然としないので、高低いずれも断じ得ない)

(ヘ) 本件被告らは原告からそれぞれ別紙目録(一)(二)の建物を三五年以上も継続して賃借居住している事実および賃料七、〇〇〇円が約定された昭和三九年六月から四一年二月までは一年八カ月、その後四二年七月までは一年五カ月でいずれもおよそ一年半ばかりしか経過していない事実を考慮すると本件賃料の増額の幅については自ら限度があり、積算式ないし利回り方式によつて算出された額が高額だからといつて、直ちに大幅増額の理由とすべきではない。

(ト) ところで建物賃借人は直接の賃借物件である建物を占有使用するとともに、必らず間接的にその敷地を占有使用しているものであるから家賃は純建物使用の対価たる部分(純家賃部分)と敷地使用の対価たる部分(地代相当部分)に分析することができる。しかしてその両部分の割合は、同一物件の場合でも、年月の経過により変動するものと考えられる。けだし地代の基礎となる土地については通常物理的損耗は考えられず、地価は近時相当大幅に騰貴する一方であるのに対し、純家賃の基礎となる建物自体の価格については、一般物価の上昇に伴なう騰貴がある反面、物理的損耗による価格の低下(耐用年数の経過に伴なう減価償却により投下資本も漸次回収されていく)があり、上昇率は減殺されるので、賃料の中に占める純家賃部分の割合は相対的に次第に減少していくものと考えられる。

(チ) そこで昭和三九年六月当時の本件建物価格(建築後三五年余を経ており、中西鑑定によればかなり損耗の度が進んでいるものと認められる)の敷地価格に対する割合を検討するに、岩本鑑定によれば、その割合はおよそ一対七であること、つまり本件不動産価格の中で建物の価格の占める割合は八分の一程度と認められる。中西鑑定によれば、この割合はいくぶん大きく評価されているが大差はない。

しかして<証拠>によれば全国木造建築費指数は昭和三〇年三月を一〇〇とすれば三九年六月は一九〇、四一年二月は二〇〇、四二年七月は二二五程度であるから、建物価格も右程度の上昇があるものと認められるが、一方建物は建築後の年月の経過に伴う損耗による価格の低下があり、現実の建物価格の上昇率は、その両者の差額にとどまるので土地価格の上昇率より必然的に小さくなるものと考えられる。

してみれば本件賃料増額の原因の大部分は地価の高騰に伴なう地代相当部分の増額によるものとみることができる。

よつて本件賃料の算定については、中西鑑定のスライド式による算定の結果(スライド式の場合、正確には、前記のとおり賃料の構成要素を分析し、純家賃部分については建物価格の上昇率を乗じて算出すべきであるが、中西鑑定ではこの区分をしないで、金額の七、〇〇〇円に地価の上昇率を乗じて算出しているのでこの点は不正確のそしりを免れない)を基本としてこれに建物価格の上昇率が前記のとおり地価の上昇率よりもかなり低率であることを考慮しこの分を減額修正するのが相当である。

(リ) なお本件土地および建物に対する租税の合計額は、岩本鑑定によれば、昭和三九年の月額六〇〇円(原告所有の(一)(二)の建物および隣家の三戸分で年二一、六〇〇円)四一年度月額七二二円(三戸分で年二六、〇〇〇円)四二年度月額八六六円(三戸分で年三一、二〇〇円)であることが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。これによれば増加率は昭和三九年を一〇〇とすれば、四一年は一二〇で、四二年は一四四となる。この指数は前掲中西鑑定のスライド式の計算の基礎指数より幾分低い数値となつているが、むしろにきわめて接近した数値である点においての指数をもつてスライド式計算の基礎とすることの合理性を裏づける一資料となるものと考える。

(ヌ) よつて昭和三九年六月当時の賃料七、〇〇〇円のうち、純家賃部分を八分の一強の九〇〇円とみて、この部分の上昇率については、前記(チ)の建物価格の騰貴率を考慮し、一方本件賃料増額の前後の期間が三年にすぎないことから、この間における建物の損耗による価格の低下は僅少にとどまる点を考慮して、左記のとおり三九年六月を一〇〇とすれば四一年二月は一一〇、四二年七月は一二〇の指数となるものと認めるのが相当である。次に七、〇〇〇円の八分の七弱にあたる六、一〇〇円の地代相当部分の上昇率については、前掲中西鑑定のスライド式計算の基礎指数のうち、昭和四一年二月を一二三(0.3切捨)四二年七月を一四六(一四九から三を減じて四一年二月の増加指数の二倍の増加にとどめる)として本件賃料額を算定すると次のとおりとなる。

純家賃部分指数

地代相当部分指数

合 計

(一〇〇円未満切上)

昭和

三九年六月

一〇〇

九〇〇円

一〇〇

六、一〇〇円

七、〇〇〇円

四一年二月

一一〇

九九〇円

一二三

七、五〇三円

八、四三九円

(八、五〇〇円)

四二年七月

一二〇

一、〇八〇

一四六

八、九〇六円

九、九八六円

(一〇、〇〇〇円)

以上の諸事実を総合し、結局本件各建物の賃料額は昭和四一年二月以降月八、五〇〇円、四二年七月以降月一万円をもつて相当と認める。 (梶田寿雄)

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